平成25年冬の敗戦

ちょっと古い話題ですが、猪瀬直樹さんが東京都知事の職を辞されました。

残念に思うと同時に、諸行無常というものを感じずにはいられませんでした。

氏が国家をテーマに多数著述されている作家であるがゆえに、今回の転落はどうしても皮肉な結果という感を禁じえません。

ただ、副知事になり知事になりと、権力の階段を上がっていくにつれ、氏の顔面と相貌が作家自体のそれと比べて明らかに弛緩し鈍磨していったのをメディアを通じて知っていたので、権力というものはかくも人を変えるのかと私のような小市民は驚きと一抹の寂しさを覚えるのです。

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そう思うのも、私は氏の作品をそれなりに読み込んでいる方だからだと思います。

今回の一件で政治家としての再登場はないと思いますが、作家としての氏の知性までもが否定されてしまうのは社会にとって大きな損失だと思います。

たとえば、氏の特徴的な変質的とも言える調査能力を駆使して書かれた大宅壮一ノンフィクション賞受賞のこの作品。

ミカドの肖像



みなさんは各地にあるプリンスホテルがなぜプリンスホテルという名前であるか知っていますか?そしていまはもうないコクドという会社がどうやって西武という一大グループを作り上げっていたかを?

こういった作品を新たに目にすることができなくなるのは知的好奇心の充足といった意味でも残念でなりません。

他にも、あの石破幹事長が推薦書として挙げるほどのこの作品。

昭和16年夏の敗戦


もし日米が開戦した場合にどうなるのか?時の総理自からがそのシミュレーションを指示し、そのシミュレーション結果(史実はまさしくそのシミュレーションどおりの結果になったわけだが・・・)を事前に知っておきながら日米開戦という判断を下してしまった日本社会の組織が持つ宿命的な病理。いや、統治の欠陥か。

日本の真珠湾攻撃が決定されまでにまさかこんな事実があったとなること必至です。

いまのところ私の第二次世界大戦に対する歴史認識の大部分はこの本によるところが大きいです。

他にも太宰治、三島由紀夫といった一連の癖のある昭和の文豪の評伝も捨て難い傑作です。

ペルソナ―三島由紀夫伝 (文春文庫)


ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)


67歳とまだまだお若いので、氏にはぜ道路公団民営化に始まる自身と政治との邂逅から今回の転落までを回想録のような形で発表してもらいたいです。

氏の一読者として早い時期での復活を望みます。

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