まったくおもしろい作品がなかったわけじゃない。ここ数年だったら
「老人と宇宙(そら) 」
、アレはおもしろかった。
地球での人生を終えたあと、宇宙戦士としてセカンドライフをおくる設定がなにより秀逸だった。続編も全ておっかけた。
おもしろそう!と思って買うのだけど、最後まで読み続けられない作品も多かった。
攻殻機動隊チックな、人の記憶が情報化されてメモリーチップにダウンロード可能な世界を描いた
「オルタード・カーボン」
もそうだ。
「ハーモニー」
はなんかプログラムチックなタグで囲まれた書き方が鼻について読み進められなかった。前2作を読んでおきながら独特の思弁的な叙述について行けず挫折した
「アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 」
。話が硬いと、途中で飽きちゃうんですよね・・・
SF小説と言えるかどうか微妙だけど、カズオ・イシグロの
「わたしを離さないで 」
の物語世界は間違いなくSFのそれだった。ああいう自分のクローンを隔離して飼いならして、なにかあったときのスペアパーツとする社会は近々やって来るんじゃないだろうか。
1年に一回でいいからおもしろいSF小説に出会いたい。
僕が好きなSF小説ベストファイブをあえてランキングにするとこんな感じだ。
●5位 タイム・シップ/スティーブン・バクスター


思えば「アルジャーノンに花束を」を中学生の時に読んだときからが、自分の読みたい本を自分で選んで主体的に読むという意味での、僕の読書人生が始まりだと思う。同じように僕にとってSF小説ライフの始まりを告げた一冊はというと、この一冊になる。HGウエルズの古典的名作「タイムマシン」を遺族の了解を得て描き上げたこの作品は、時間旅行はもちろん、ナチスがもしも…のような歴史改変もの、人類の進化の果て、起動エレベーターなど、SF好きにはたまらないガジェットとテーマをふんだんに盛り込みながらも、ウエルズの「タイムマシン」の正当な続編として楽しめる傑作となっています。書きっぷりもヴィクトリア時代のイギリス人の目から見た描写なので、変にハードハードしていなくてオールドスクールのSF小説好きも満足できる一品に仕上がっています。もちろん本家ウエルズの「タイムマシン」をまずは先に読んでからじゃないと面白く無いのは言うまでもないですが、面白さは本家を上回っていると思います。
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タイムマシン


ウェルズの遺族公認の続編が上の一冊だとしたら、こちらはその子孫(ひ孫らしい)がつくったオリジナルのタイムマシンの映画化作品です。ビデオで2回ほど、テレビで数回見ていますが、ウェルメイドのSF映画でいつ見ても楽しめます。この作りでどうしてタイムスリップできるのか?とツッコミたくなるようなタイムマシンですが、ちょいスチームパンクなノリのタイムマシンがいい感じです。
●4位 世界の終わりとハードボイルドワンダーランド/村上春樹


僕の好みとしては「人類が衰退した先の世界」「ディストピア」みたいな舞台設定の作品がどうやら僕は好きなようなんです。今でこそ村上春樹は新作が出たら昔ドラクエが出た時と同じぐらいの喜びを感じるほど好きな作家ですが、この村上春樹の作品を知ったときはまだ一作も読んだことがありませんでした。けれども「世界の終わり」というSF寄りのキーワードにひかれて手にとってみたところ、これがまあめっぽう面白いんです。暗号と復号を行う「計算士」と呼ばれる国家認定の仕事を行う主人公が敵対する「記号士」との闘いを描いた(ハードボイルドワンダーランド)と、自身の心象世界とも言えるファンタジーの世界(世界の終わり)とが一章ずつ交互に描かれる、冒険活劇SF小説です。けれどもそこは村上春樹、やはり自己の喪失というテーマを軸に都会人の生活がいつものごとくケレン味たっぷりの文体で描かれます。村上春樹ではなんだか言って今だにこれが一番好きかも。
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わたしを離さないで/カズオ・イシグロ


SF小説の衣をまとった純文学として同じくらいオススメなのがこの一冊。最初はなんのこっちゃわからないミステリにありがちなミスリードを誘うような部分が続きますが、徐々に見えてくるその戦慄の世界に驚愕必至。人の生命は誰のものか?ということを考えさせられるカズオ・イシグロ渾身の一作です。村上春樹のノーベル文学賞が噂されてますけど、もし村上春樹がノーベル文学賞をとったならば、次にとるのはこの人だと僕は踏んでます。
●3位 都市と星/アーサー・C・クラーク


この作品は近年まで絶版だったのに3年ほど前に新訳で復活しました。アーサー・C・クラークは「幼年期の終わり」は好きだったのですが、他の作品はどうしても今で言うグレッグ・イーガンのようなハードSFの走りの気がして好きになれなかったのですが、この作品はドンピシャリで僕の好みにマッチしました。物語は、人類がドーム型のシティの中で、まさに揺りかごから墓場までの状態で管理しまくられている世界の中で、一見人々はなんの不自由もなく暮らしていたが、真実を知ろうとした主人公が見たものは……。こう書くと誰もがどこで一度は見たり読んだりしたことがある設定だと思います。なぜならこの作品がこういうディストピア設定の元祖と言っていい作品だからです。とはいえそこは後に続いた凡百の亜流が超えられない巨匠ならでは深淵を見通した展開が繰り広げられています。
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未来惑星ザルドス


初めてみたのはローカルテレビの深夜放送だっただろうか?ショーコネリーの赤パンもさることながら、ハリボテ感満載なザルドスという神のギミックなどなど、いま見ても衝撃なところが満載なこのSF映画。上の「都市と星」と同じく、管理されて幸福なはず未来社会とその反抗を描いています。こちらは幸福な社会を支えている下級人類から見た闘争が主軸になっています。猿の惑星などのあの時代のSF映画の作りが好きな人はきっと好きになるはずです。私は結局DVD買っちゃいました。
●2位 都市/クリフォード D.シマック


なぜこれほどの名作が絶版なのかSF小説の出版状況を憂えざるをえません。わたしは大学生の時に図書館で借りて読んで以来、もう一度再読したくてずっと古本屋で探していて数年前に結局アマゾンのマーケットプレイスで購入しました。人類が滅亡した遠い未来。人類の衣鉢を継いだ犬たちが語る、黄昏の時代の人類の物語。作品の体裁は短篇集です。この後の1位の作品もそうですが、こちらも話の筋としての妙というよりも書かれた主題とその描写に心を惹かれてしまいます。中でも、人類が金星の硫酸雨の中で生きるために人類ではない別のものにトランスフォームしてしまう描写は圧巻です。
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アドバード/椎名誠


椎名さんにはもっとSF小説をいっぱい書いてもらいたい。けれども、この一冊以外、椎名SFにはとんとお目にかなったことがない。この一冊だけで自身のSF小説を完成させてしまった心境なのだろうか。いずれにせよこの一冊は確実に日本SF史上の一つの到達点と言っていい作品だと思う。シマックの「都市」とは話の筋も舞台設定も全然違うが、同じ空気というか読後感を感じる作品。なんというべきか人間進化の想像力の果てに触れたような気持ちになります。一読目はウッ!となって読み手を選ぶかもしれませんが、読んで損は無しの傑作です。
●1位 火星年代記/レイ・ブラッドベリ


火星年代記。英語での原題は“The Martian Chronicles”。人類がロケットに乗って火星に向けて飛び立っていたエピソード(「ロケットの夏」)から始まり、いまはもう滅びに瀕している火星人の霊との交流などをおりまぜながら、火星上での人類の植民の黎明からその黄昏までが、年代記の名の通り時系列に語られていきます。基本的に短編集のつくりなので、どこから読んでも楽しめます。レイ・ブラッドベリならではの詩情にあふれており、いつ読んでも心に染み入っていきます。これはSFポエトリーなのだ。
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火星夜想曲/イアン・マクドナルド


同じ火星を舞台にしたこの小説は、火星版「百年の孤独」ともたとえられるほど。「火星年代記」が人類と火星植民の黎明と黄昏を描いた作品であるならば、こちらはある一族の火星での栄枯盛衰を描いた作品。ページを繰りながら読み進めるうちに行ったはずのない火星の情景が目に浮かんでくるほど、夕焼けの光線の中、砂塵舞う乾いた火星の雰囲気がこちらに伝わってきます。
こういうのが読みたいんです。よろしく。
小説ではないけど、
「バトルスター・ギャラクティカ」
はここ10年間のなかでベストオブベストと言っていいぐらいのSFドラマでした。映画、漫画、小説をひっくるめたオールジャンルSFランキングのなかでもベスト3内に入るぐらいかも。いまだにHuluで見返しています。
ダウンロードして再生可能な人生、クローン、宇宙戦艦、ロボットの人間への反乱、地球の起源など、星への入植、権力闘争・・・
何がこんなにおもしろいのか今だに整理ついてませんが、まだ未見の人はぜひご覧くださいと強くオススメしたいです。
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